社宅の退去費用は誰が負担する?原状回復トラブルの対策や修繕費相場を解説
社宅を管理する企業担当者の方の中には、社宅の退去について「退去の際の費用など、わからないことが多い」「退去の時にトラブルにならないように事前に対処しておきたい」などと思っている方も多いのではないでしょうか。社宅の退去の際には、退去費用に関するトラブルに対処したり、費用に関するやややこしい規約を読み直したりと、問題がつきものです。そこで今回は、社宅の退去費用について詳しく解説していきます。社宅の退去に関して疑問がある方は、ぜひこの記事を参考にしてみてください。
目次
社宅の退去費用は企業と社員どちらが負担する?
社宅の退去費用は、企業と社員のどちらが負担するものなのでしょうか。そもそも、賃借人と賃貸人では負担するものが異なります。「賃借人」とは、お金を払って物件を借りる人、つまり家賃を支払う入居者です。一方、「賃貸人」とは物件を貸す人、つまり物件の管理者や大家さんのことを指します。
国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」によると、賃借人の負担となるものは、以下のような賃借人の過失によってできた傷や汚れなどの修復費用です。
- 引越し作業等で生じた引っ掻き傷
- 賃借人が日常の清掃を怠ったための台所の油汚れ
- タバコ等のヤニ・臭い
- 日常の不適切な手入れもしくは用法違反による設備の毀損 など
一方で賃貸人の負担となるものは、以下のような日常生活でついてしまう汚れや傷の修復費用です。
- 壁に貼ったポスターや絵画の跡
- 壁等の画鋲、ピン等の穴
- テレビ、冷蔵庫等の後部壁面の黒ずみ など
より詳細な内容については、国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」で以下のように提示されているので、参考にしてみてください。
では、賃借人が負担する退去費用については、会社と従業員のどちらが支払うのでしょうか。これは、借り上げ社宅と社有社宅で異なります。それぞれの場合について以下で説明していきます。
借り上げ社宅の場合
借り上げ社宅とは、企業が賃借人となって物件を借りている社宅のことです。借り上げ社宅の場合に企業と従業員のどちらが退去費用を負担するかについては、法律上では特に決まっていません。
社宅を福利厚生として提供している場合は、入居者負担にすると従業員の負担が大きくなってしまうため、福利厚生としての効果が薄れてしまいます。そのため、一般的には会社が負担する場合が多いです。
賃借人による負担のなかでも、たとえば飼っているペットがつけた傷など原因が会社とは関係のないところで従業員個人に寄与する場合は従業員の負担とする、というように事前に社宅管理規程に定めておくことで、退去時のトラブルのリスクを減らすことができます。
社有社宅の場合
社有社宅の場合は、会社が賃貸人となり、社員が賃借人となります。その場合、企業によっては社員の退去時に費用を徴収するケースもあります。しかし、こちらも先ほど述べたとおり賃借人と賃貸人で負担する原状回復費用は異なるため、社員の過失の場合は費用を徴収するという規程を具体的に決めておくことでトラブルを防ぐことができるでしょう。
原状回復費用とは
そもそも、原状回復費用とはどういった費用のことなのでしょうか。国土交通省による「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」によると、原状回復義務とは「貸借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、貸借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による消耗・毀損を復旧すること」と明記されています。
つまり、賃借人側の不注意や過失でできてしまった汚れや傷などは、借り手側に問題があったとみなされるため賃借人側が払わなければなりません。例えば、賃借人が結露を放置したことで拡大したカビ、シミなどは、賃借人側が原状回復費用を負担します。
一般的に、賃借人の払った敷金から原状回復費用が差し引かれ、余った分は返却、もしくは不足していた場合はその分を請求されることが多くなっています。
原状回復費用をめぐるトラブルは多い
原状回復費用に関しては、賃貸人と賃借人の間、また企業と社員の間でトラブルが多くなっています。
そもそも国土交通省が定める「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」が制定された背景として、このようなトラブルが多かったことがあるのです。原状回復費用の負担について、修繕費の支払いが賃貸人なのか賃借人となるのかは、ガイドラインに従うことでトラブルを避けられます。
しかし賃借人が負担する項目の場合、物件を契約した企業が負担するのか、実際に住んでいた従業員が負担するのかについては決まったルールがなく、企業側に一任されています。そのため、事前にどのような場合には企業側が負担するのか、従業員が負担するのか、ということを定めておくことが重要です。ペットがつけた傷の修繕費は飼い主である従業員が負担する、など具体的な例を明記することで、トラブルを回避するためのわかりやすいルール制定ができるでしょう。
社宅の退去費用でトラブルを避けるための対策
では、社宅の退去費用に関するトラブルを避けるために、どのような対策が有効なのでしょうか。
主に、以下のような方法が考えられます。
- ガイドラインのチェックリストを活用する
- 契約条件を社員にしっかりと説明する
- 社宅規程に費用の負担区分を明記する
- 企業と社員で誓約書を取り交わしておく
ガイドラインのチェックリストを活用する
先でも触れたように、国土交通省が定めた「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」のチェックリストを活用することがトラブルを防ぐ重要なポイントでしょう。国が定めているという信頼感があるため、このガイドラインに沿って費用負担を確かめることでどちらが負担するかを確認することができます。またトラブルとなった場合でも、この国土交通省のガイドラインは一般にも公開されている資料のため、状況によっては証拠資料として差し出すことも可能です。
契約条件を社員にしっかりと説明する
契約条件を事前に社員へしっかりと説明することも対策の一つです。
契約において賃借人が負担する特約条項などを設けている場合には、入居時に従業員へ明確に説明しておく必要があります。そのためには、契約を締結する前に契約書を社員に開示したり、社員に対して契約条件などをきちんと説明する場を設けたりして、条件を共有することが有効です。
社宅規程に費用の負担区分を明記する
また、社宅規程に費用の負担区分を明記することも重要です。企業と社員の費用負担区分をテキストで残し共有することで、のちのトラブルを防ぐ手立てとなります。
特に借り上げ社宅はトラブルが起こりやすいので、「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」内の「賃借人の負担となるもの」の中で何を会社が負担し何を従業員が負担するか、明確に区分を定めておくとよいでしょう。
企業と社員で誓約書を取り交わしておく
とはいえただ説明しただけでは、言った言ってないの水掛論となってしまう可能性もあるため、企業と従業員間できちんと誓約書を取り交わしておくことも後々のトラブルを防ぐことにつながります。
誓約書に記載すべき項目の具体例としては、以下の通りです。
- 入居条件
- 従業員が負担する費用
- 禁止事項
- 原状回復 など
上記のように、トラブルになりやすい事項に関して明記しておくとよいです。これにより、入居者となる従業員も「部屋をきれいに使わなければならない」という意識が芽生えるため、退去時の確認などがスムーズになるでしょう。
修繕費の相場はいくら?
ここまで退去時の費用負担について説明てきましたが、気になるのは修繕費の相場がいくらぐらいなのか、ということです。ここでは、原状回復費用の相場とハウスクリーニング費用の相場について説明していきます。
原状回復費用の相場
まずは、原状回復費用の相場です。以下の表にまとめたので、参考にしてみてください。
原状回復の内容 | 料金相場 |
---|---|
壁や天井の張替え(壁紙) | 45,000円(6畳の部屋の場合) |
壁や天井の張替え(ボード) | 10,000円(小さな穴の場合) |
床材の張替え | 20,000〜60,000円 (1畳あたり) |
水垢やカビのクリーニング | 10,000〜20,000円(浴室/1回) |
キッチン汚れのクリーニング | 10,000〜25,000円(1回) |
ハウスクリーニング費用の相場
次に、ハウスクリーニング費用の相場はいくらぐらいなのでしょうか。全体を見てみると、原状回復費用に比べて若干安くなっています。
こちらも表にまとめているので、以下を参考にしてみてください。
クリーニングしてもらう場所 | 料金相場 |
---|---|
キッチン | 12,000~20,000円 |
浴室 | 12,000円~18,000円 |
トイレ | 6,000円~9,000円 |
洗面所 | 7,500円~10,000円 |
水回り | 15,000円~38,000円(3箇所)/18,000円~75,600円(5箇所) |
床材のクリーニング | 8,400円~15,000円(6畳あたり) |
まとめ
今回、社宅の退去費用について解説してきました。賃借人と賃貸人の負担範囲については国土交通省のガイドラインに明記されていますが、会社と従業員それぞれの負担割合は企業で対応すべきポイントとなります。トラブルを避けるためには、自社での事前対応が重要です。そのためにも、ガイドラインのチェックリストを活用する、契約条件を社員にしっかりと説明する、社宅規程に費用の負担区分を明記する、企業と社員で誓約書を取り交わしておく、といった対策を実行して、退去の際のトラブルを未然に防ぎましょう。